コンピューティング史見聞録(36)
Logoの黎明期

2026年2月1日

今回はLogoというプログラミング言語が誕生した経緯について紹介しよう。一般向けには、「シーモア・パパート(第32回)がLogoを作った」という説明がなされることが多いが、実際の経緯はもう少し入り組んでいる。本稿は参考文献として"History of Logo"[1]という論文に依っているが、筆者はその論文の著者の多くとも親交があるので、個人的に聞いた話なども交えていこう。

■Logoがもたらした革新

そもそもLogoと言う言語がなぜ注目に値するのか、ということであるが、Logoは小学生や中学生向けのプログラミング言語として最初期のものであり、研究者がコンピューターを中学校に持ち込んで子供達に実際に使ってもらい、その経験と実績を踏まえて改良されつづけたものである。その系譜を踏む言語やシステム、例えばScratchは2026年現在で世界中の何億人ものユーザーに使われているからである。

■LogoがLogoとなる前

さて、第22回で紹介したBBN社は、そこに参加したリックライダーの方針から、会社としてコンピューター事業に取り組んでいた。BBNは民間企業ではあるがMITとの深いつながりを保っていた特異な企業であり、BBNでは人工知能研究部門などまで持っていた。そこで働いていたウォリー・フォイヤーザイグ(Wally Feurzeig)というエンジニアが、コンピューターを教育用途に使う研究を任され、そのためのプログラミング言語の設計を1965年に始めた。フォイヤーザイグは彼が作っていたTelecompという言語を学校で試していたが、その活動に興味を持ったシーモア・パパートが見学に来て、「これは改良して多くの子供に使えるようにすればすごいことになる」という発想となり、共同で新しい言語の開発にあたることとなった。

フォイヤーザイグのチームにはシンシア・ソロモン(Cynthia Solomon)とダニー・ボブロウ(Danny Bobrow)というメンバーがおり、パパートと彼らは緊密な連携をとり、そして実際に中学生に使ってもらいながら、この新しい言語を「育てて」いったわけである。後にフォイヤーザイグが提案したLogoという名前に変わったこの言語は、文字列操作を主軸とした言語であった。後にLogoの代名詞となったグラフィカルな環境ではなく、テレタイプというタイプライターのような機械を子供達が使うところから始まった。

初期のLogoプログラム例

子供達が試したプログラムは例えば以下のようなものである。まず、"鳥、犬、 虫、 ロバ、 アヒル、 猫、 ハムスター"のような「名詞のリスト」や"憎む、転ばす、噛みつく、愛する"のような「動詞のリスト」、そして「形容詞のリスト」を作る。そして、そのリストから簡単な構文規則に従いつつ、カテゴリーの中の単語をランダムに出力すると

赤い ハムスター が ふわふわ の ロバ を 転ばす (RED GUINEA PIGS TRIP FUZZY WUZZY DONKEYS)
おかしな 鳥 が ぴょんぴょんする 犬 を 憎む (PECULIAR BIRDS HATE JUMPING DOGS)
というような文が生成されるというものであった。

これは他愛もない例のようにも見えるが、実はコンピューターのプログラムを自ら書くことによって学ぶことに関わる強力なアイディアに基づいている。

このプログラムを書くときに、まずは品詞の区別を気にせず、動詞でも名詞でもいっしょくたにしたリストを作り、そこからランダムに単語を選ぶようなものからはじめることになるだろう。すると

犬 の へんてこが ふわふわの 犬な 太った (DOGS PECULIAR FUZZY DOGS FAT)
のように意味をなさない文を生成してしまう。ここで、「失敗した」と思うのではなく「惜しいので改良したら良くなる」と促し、かつ「ほら英語の授業で品詞の違いがあったでしょう」と思い出させることにより、品詞にわけたリストを作って、文法通りに単語を選ぶようにすると、英語として意味のある文が出力できるように改良することができる。このプロセスにより、「今初めて、英語の授業で先生が言っていた品詞や構文というものが実際に役に立つのかわかったよ」というように、手を動かして自ら知識を構築できるということ、そしてプログラムに限らず、何かがうまくいかなくても失敗したと思わずに「改良の余地がある」と思えるようになる、ということである。

これを出発点として、パパートのグループは精力的に実験と改良を繰り返していった。次回はLogoの代名詞となったタートル・グラフィックスが加わっていく経緯を紹介しよう。

テレタイプ端末でLogoを使う生徒

次回掲載予定は2026年3月上旬頃

著者:大島芳樹
東京工業大学情報科学科卒、同大学数理・計算科学専攻博士。Walt Disney Imagineering R&D、Twin Sun社、Viewpoints Research Instituteなどを経て、現在はCroquet Corporationで活躍中。アラン・ケイ博士と20年以上に渡ってともに研究・開発を行い、教育システムをはじめとして対話的なアプリケーションを生み出してきた。2021年9月に株式会社京都テキストラボのアドバイザーに就任。2022年8月より静岡大学客員教授。